東日本大震災に寄せて―歴史都市防災研究センターからのメッセージ
東日本大震災で自らの、そして愛する人々の尊い命を亡くした皆様に心から哀悼の意を捧げます。そして、未だに行方の分からない人々が一日も早くご家族のもとに帰れることと、住み慣れた場所や家を地震、津波そして放射能の故で離れざるを得なかった皆様が、一刻も早く元の生活に戻れることを心から願っています。
被災者の全ての方々は、それぞれにとって何にも代え難い大切なものを失ったのです。それは命であり、生活です。一方、私たちの社会にも大切なものがあります。その一つが文化財あるいは文化遺産です。それらは五百年、千年前の人々が創ったものを次の時代が受け継ぎ、私たちに遺してくれたものです。このように考えると、私たちには地震や津波から文化遺産を守り、後世へ継承する責務が科されているのです。
津波の常襲地帯である三陸地方では、先人の知恵として、寺社が津波の被害を受けるたびに、次第に高い場所に再建しているそうです。寺社やそれが擁している文化財は一度無くしたら取り返しがつきません。特に、燃えて灰になったら、どのような方法をもってしても回復は出来ません。このように文化財に取っても災害は大敵なのです。私たちのセンターもこのような文脈において、文化遺産を災害から守るための研究を進めています。
東北地方には白神山地が世界自然遺産に指定されていましたが、このたび、平泉が東北で初めての世界文化遺産に指定されるようです。被災地にとっては明るいニュースの一つでしょう。今度の震災でどれだけの文化遺産が傷ついたかについては、まだ詳細な調査や研究が進んでいませんが、平泉の世界文化遺産への指定を契機として、傷ついた文化遺産の復興のみならず被災地の復興への力強いきっかけとなることが強く望まれます。
文化遺産は地域や時代を問わず、地域の人々により大切に守り育てられてきました。時には人々の心の拠りどころでもありました。今度の震災でも被害が最小限にとどまり、被災者の皆様の生活の再建に際しても支えになることを願っています。被災した地域の文化遺産が以前にも増して被災した人々の心の支えになることを願うとともに、私たちの研究がその一助にでもなれば幸いです。